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旭川家庭裁判所 昭和53年(少)809号 決定

少年 T・M(昭三九・六・二八生)

主文

少年を教護院に送致する。

理由

(非行事実)

北海道旭川児童相談所長作成の送致書(昭和五三年七月七日付)記載の審判に付すべき理由のとおりであるからこれを引用する。

(適用すべき法令)

少年法第三条第一項第三号ロ、ハ、ニ

(処遇理由)

1  少年は、小学校六年生の頃から触法行為があらわれ、中学校入学後は、居住地域の非行少年らと急速に親しくなつてグループ化し、同一年生夏休み頃以降、怠学、飲酒、喫煙、無断外泊、不純異性交遊などのぐ犯行動のほか、万引、シンナー吸引などの非行を反覆累行し、この間、警察も補導に乗り出して昭和五二年一一月一〇日児童相談所に通告し、更には学校当局も指導監督体制の徹底を図つたが、少年の行状は一向に好転せず、次第に不良交遊の輪を広げ、外泊の態様が深刻になるに及んで同五三年五月八日学校より児童相談所に通告がなされた。しかし、少年の交遊関係や素行の改善はみられず、市内徘徊中に知り合つた有職少年のアパートに外泊中、同年六月二七日児童相談所に一時保護されたものの、その間再三無断外出を敢行し、その外出中上記少年とカーホテルで一緒に過すなどの行状がみられ、父親の協力も得られなかつたため、同年七月七日当庁に本件ぐ犯通告がなされるに至り、同年八月三日第一回審判の結果、当庁家庭裁判所調査官の試験観察に付され、暫くは落ち着きをみせていたが、六日後には家出をして上記有職少年や遊び仲間のアパートなどを転々として放浪生活を送つていたものである。

2  こうした少年の生活歴及び行動傾向の実質を具に検討し、以下に述べる少年の家庭環境及び性格などと関連させて考察すると、少年の非行性は次第に固着化の様相を呈してきているものというべく、そのぐ犯性は顕著なものと認めざるを得ない。すなわち、少年は父子家庭で生育してきたのであるが(母は少年の二歳のときに父と協議離婚した。)、父親は少年の幼少の頃より結核を病み、酒好きで現在はアルコール中毒の症状がみられ、昼夜を問わず仲間と酒盛りをする有様で、生活保護家庭で経済的に余裕のないこともあり、少年の平素の問題行動に対し、学校や関係機関と相協力して親としての真しな監護態度でこれに接し、その対策に腐心したような事跡は全く認められず、むしろ放任的ないし無関心的態度に終始していたものといわざるを得ないのであつて、今後においてもその規制力や指導力はにわかに期待できない。それでも少年は、こうした家庭内にあつて、小学校高学年の頃より炊事、洗濯などの家事を分担し、ある種の役割意識をもつてけなげに父親に尽してきたことが窺えるが、一方では不適応感もあり、近隣の低所得・生活保護世帯の少年らとの交遊関係がグループ化する中で、家庭とのかかわりを避けるようになり、やがて本件非行への途を歩むことになつたものと思われる。更に、調査及び鑑別の結果からも明らかなとおり、少年は知的能力に特に劣るわけではなく(新制田中B式知能検査(第一形式)による知能指数は九六)、性格的にも明朗さや活発さを備え、かつ冷静に自己や周囲をみつめる能力も喪つてはいないが、上記のような自分だけではどうにもならない環境負因の重圧がこうした資質面の成長・開花を妨げ、むしろ少年の劣等感や無力感を培うこととなり、それが大人への不信感や反発的な意固地な態度をとらせ、更には少年を自暴自棄的にして上記問題行動に逃避させる大きな要因となつたことは容易に推測できるところである。

3  そして、学校側も少年の行動傾向及び保護環境に特段の変化がみられない現状においては、少年を継続的に受け入れ教育していくことに対して消極的態度をとつており、上記のような少年の生活歴、非行歴、環境、資質並びに本件ぐ犯行動の実態を併せ考えると、少年が現時点において幾分過去のことを反省し再び同種の行動を繰り返さないとの心境にあり、かつ父親が少年の引き取り監護を希望していることを考慮してもなお、少年を現状のまま放置しておくことは、少年を更に進んだ非行に追いやる可能性を選択するのに等しく、そうとすれば少年に対する監督指導も既に在宅保護の限界を超えているものと認めるのが相当であつて、むしろ現在の保護環境から離隔することは少年の健全な育成という見地からして焦眉の急であるといわざるを得ない。したがつて、現状において少年の更生のために最も望ましい方策は、家庭的にも地域的にも従来と異なつた環境の下で、少年に安らぎの場を与えてその社会的・人格的成長を援助し、社会生活に欠かせない基本的な生活習慣を身につけさせ、併せて基礎的な学力の養成を図ることというべきであり、そのためには、少年の年齢など諸般の事情を考慮すると、教護院の小集団による開放的な雰囲気の中でその教育を行うことが最も多くの効果を期待できる ものと思料する。よつて、少年法第二四条第一項第二号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 篠原勝美)

別紙

昭和五三年七月七日付北海道旭川児童相談所長の送致書記載の審判に付すべき事由

下記事由により少年法第三条第一項第二号及び第三号イ、ロ、ハ、ニに該当する少年と認められる。

(1) 一時保護中無断外出二回未遂一回、外出中には若い男とドライブしたり、カー・ホテルに入つたり、喫煙等の行為があり当所の指導に乗らない。

(2) 窃盗・怠学・家出・ボンド吸引・不純異性交遊が多く、学校の指導及び保護者の監護に服さない。

(3) ○○中学の非行児A子(養護施設入所)B(児福法二七条一項二号)C(一時保護中)らとボンド吸引及び、家出時は必ず他生徒を誘うなど反社会的行為が深まつている。同時に悪影響を及ぼしている。

(4) 父子(兄)家庭で生活保護受給し生活は苦しい。父は日中から飲酒するなど生活は乱れている。こうした父の態度を嫌つて本少年は家出をくりかえしている。従つて家庭での監護は困難である。

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